Mikatsuの本棚

本を読んだ感想など書いています

セーフティーネットの穴

社会問題を扱う作品やドキュメンタリーを見たり読んだりするときは、少し覚悟がいる。元気がない時は気持ちが深く沈んでしまうからだ。話題になったときは手に取れなかった本を、やっと開いてみた。

 

(あらすじ)

東北大震災の復興が進む仙台で起こった連続餓死殺人事件。被害者は人格者として知られる公務員や議員たち。被害者は人気のないところで拘束され、死を待つしかないという残忍な殺害方法に警察はただならぬ憎悪を感じる。「善人である」ということしか共通点のなかった被害者たちは、のちにある人物の死でつながっていることが判明した。護られなかった者たちはどこへ向かうのか。

政府、行政、警察組織など組織の中の人間としての葛藤や、現社会システムの欠陥がミステリーに織り交ぜられており、とても読みごたえがあった。読んでいてつらくなるのではという予想に反して、ページをめくる手は止まらず、熱中して読んだ。

避けてきたテーマや分野の本を意識して読んでみると発見がありそうだ。

 

たのしいAI会話

ChatGPTをはじめとする生成AIと呼ばれるものが普及し、生活、ビジネスに大きな影響を与えている。AIは難関大学試験を「合格」し、風景やキャラクターなどの作品を「創作」し、製品やサービスへの問い合わせに「回答」する。人間の仕事がなくなるとの危惧はますます強まっている。

そんなAIとこれから生きていくには、人間側にもそれなりの知識が必要だろう。

この本ではAIによって作成された文章をはじめ、ChatGPTの使いかた、AIの歴史、様々なAIの種類、AI利用に伴うリスクなど、さながら大学の講義のような充実したコンテンツが詰まっている。(自分含め)さしてITに明るくない人でも、教養としてAIを知ることができるよう、できるだけわかりやすく書かれているように感じた。

ChatGPTに質問してみると、人と会話しているような感覚になるときがある。こちらを否定するようなことを言わず、適度にアドバイスをくれ、何度聞いても嫌な顔をしない。いい話し相手になってくれること間違いなしだ。ChatGPTと付き合えば、フラれることもないだろう。だけど、これはそのようにプログラミングされているだけで、実際に会話していると思い込んでいるのは人間側だけだ。それは面白くもあり、恐ろしくもある。

ChatGPTは創作ではなく、過去の膨大なデータを組み合わせて出力している。当然どこかの何かをパクっている可能性は否定できない。芸術、創作分野では著作権侵害のリスクを伴う。AIの得意分野であるデータの組み合わせを生かし、ブレインストーミングやアイデア出しに使うのは有効だ。ただし、人間のデータをもとにしているためテーマによってはバイアスのかかった回答となることは理解しておく必要がありそうだ。真偽についても完全にAI頼みにできない。

今後ますますAIが生活に溶け込むことが予想される今、AIと楽しく会話し、付き合っていくことは必修科目なのかもしれない。

 

追憶の中の祖国

年に2冊くらいのペースで洋書を読んでいる。今年の5月から読み始めた本をようやく読み終えた。

(あらすじ)

アフガニスタンの裕福な家庭に生まれ育ったアミールは、使用人の少年ハッサンと兄弟のように育つ。献身的に尽くすハッサンとの生活に救われながらも、ある出来事をきっかけにアミールはハッサンを遠ざけるようになり、決定的な別れを迎える。そんな中ソ連アフガニスタン侵攻により、アミールは父親と共にアメリカへ亡命する。アメリカで苦労を重ねながらなんとか生活を成り立たせていったアミールに、アフガニスタンから知らせが届く。祖国へ戻ったアミールは、内戦や混乱によってかつての面影もないふるさとに思いをはせながら、約束を果たすために奮闘する。

アフガニスタン出身の作家の本はこの本が2冊目になる。あまりアフガニスタンについての知識がなかったこともあり、洋書で読むのはかなり苦労した。本の中で出てくるパシュトー語の敬称や食べ物、アラーを表す言葉など、調べながら読み進めた。ただ文章自体は読みやすく、豊かな自然や市場、ソ連の侵攻やタリバンのこと、人種差別のこと、アフガニスタンの暮らしの変化が目に見えるようだった。

映画『The Kite Runner』の邦題『君のためなら千回でも』のもとになったセリフ、"For you, a thousand times over" は本書の中で3人の登場人物が述べていて、それぞれの背景の違いにもぐっときた。

ハッピーエンドとも言い切れないし、衝撃的な描写も多々あるので万人におすすめできる本ではないけれど、読んでよかったと思う。興味のある人はぜひ読んでほしい。

 

作者の心の内

このブログで何冊か紹介し、そのたびに書いているような気もするけれど、梨木香歩さんの作品が好きだ。静かに自然を見つめる描写や、その時の空気の匂いすら感じられるような筆致、つかめるようなつかめないような人柄の登場人物たち。ファン、というほどではないけれど、題名と帯の一言にひかれてまた一冊。

創作する作家として、好奇心溢れる旅行者として、地道に日々を重ねる生活者として。

世界に触れ、感じ、考え、書いてきた25年間の軌跡(帯より)

子どもの頃の思い出、作品の着想を得たきっかけや映画撮影時の思い、国内外の旅行や取材で感じたこと、料理や家のこと、雑誌や新聞へ寄稿したものが収録されている。作者の頭の中というか心の内というか、文章からぼんやりと作者自身がにじみ出るようなエッセイだった。共感できるところがあると、なんとなく近しく感じられて嬉しくなる。限りある自然に思いをはせたり、事故や災害に心を痛めたり、作品だけからでは知る由もなかった作者のことが知れた。エッセイの中でふれられていた作品を読んだことがあれば、ある種のネタバレ、創作秘話を知った気になった。

まだ読んだことのない作品も多いので、手に取っていけたらと思う。

 

読書の変遷

「若者の○○離れ」はどこか批判的はニュアンスを含む、若者に対しての常套句みたいなものだ。「最近の若者は本を読まない」も、それにあたる。おもしろいのは「最近の」と言いながらこの手の言葉はいつの時代もある。「若者の本離れ」は約40年ほど前から言われ続けているようで、きっとこれからも言われ続けるのだろう。

読書をしないことはそれほど罪深いことなのだろうか。そもそも「読書をする」ということはいつの時代も同じ意味なのだろうか。

 

残業を当たり前として働いていた時、本がほとんど読めなかった。タイトルを見たとき思わず共感して手に取ったけれど、読み進めていくとタイトルに対してこの本の内容は全く違うように感じた。それでも最後まで読むと、タイトルの意味が分かるような気がした。

この本で興味深かったのは、読書というものの役割、意味合いが時代によって変わっていったということだ。明治、大正時代の読書は、一部のエリートの教養のためにあったが、戦前、戦後はこれがエリートだけでなく大衆の教養に変わる。教養をつけることが豊かな生活を送る足がかりになっていたのだ。1970年から1990年にかけて、娯楽としての読書が広がりを見せる。日本的企業の働き方が定着するのも相まって、自己啓発や社内のコミュニケーション術などの本が読まれるようになる。会社での成功は教養以外の要因が強く影響するという考えが広まっていったようだ。そして現在では、読書以外の娯楽が発達し、読書は「ノイズ」という側面を強く持つ、と筆者は分析している。

本を読むということは忍耐力のいるものだと思う。タイトルにつられて買った本が思った本でなかったり、受賞作が自分には刺さらなかったり、ゲームや動画に比べて不確実性が高い。わざわざ読まなくても、YouTubeで本の解説動画はごまんとある。映画やアニメ、その他なんでもタイパが重視されるこのご時世に、わざわざ時間をかけて読み進めていかなければならないというのは効率が悪いともとれるだろう。

ただ、人が読書をしなくなったといわれる要因はほかにもある。働くことで自己実現をするという価値観が浸透し、働くことに手いっぱいで本を読むというような活動をする時間と元気がなくなっているのではないか、と筆者は指摘し、そんな社会へ警鐘を鳴らしている。

筆者はこの本で読書がしたくてもなかなかできない人には読書の世界へ再び戻れる手引きを、読書は趣味ではないけれど、日々の忙しく仕事三昧の日々を生きている人には現状を見直すヒントを提示している。

 

 

読書で世界旅行#11~15

読書で世界旅行、11か国目から15か国目までをリストアップ。

11か国目はフランス。障がいをもって生まれた子どもの家族の視点から、様々な過程を経て受け入れていく描写が鮮烈だった。

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12か国目はインド。スラムで必死に生きながら人生を学んだ主人公に目が離せない。映画も観たい。

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13か国目はオーストラリア。今年一番のお気に入りの一冊かもしれない。宗教関係の知識に乏しくて理解しきれないところはあったけど、読み応えのある本だった。

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14か国目はウクライナ。自分には遠いと思っていた戦争を、近くに感じた。

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15か国目はイタリア。歴史的背景も相まって、考えさせられる一冊。

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海外小説を経て、戦争の歴史や国の違いなど知るきっかけになった。海外の著者は、探すと意外と翻訳版が出ていたりするので、これからも意識的に読んでいきたい。

読書で世界旅行#6~10

前回の読書で世界旅行に引き続き、6か国目から10か国目までをリストアップ。

 

6か国目はチェコガーデニングを始めた時期に参考書として読んだ。

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7か国目はアフガニスタンアフガニスタン作家の本が読めたことに感動した。

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8か国目はドイツ。ちょっと堅めの本を読んでみた。

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9か国目はイギリス。梨木香歩訳、酒井駒子絵の、二人のファンとしてはぜひ読みたかった一冊。

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10か国目はアメリカ。洋書に挑戦した。

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一覧を作っていて気づいた。カテゴリー分けがあまりよくない。「ビジネス書」と「実用」もあいまいな分け方になっていて、「ビジネス書」カテゴリーに分けられている本が少ない。要修正事項だ。

リスト化すると、改めて読んだ本たちのことを思い出す。読んでよかった本のことを記録に残すのはいいアイデアだと思った。