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使命を果たすための人生は幸せか

再生医療や移植技術の向上など、医学の進歩は目覚ましい。

倫理的な問題を除けば、動物のクローンを作ることも可能だ。

クローン技術で生まれたヒトは、臓器提供をするという使命を持って生まれる。それは果たして人なのか。その人は幸せに生きられるのか。

※ネタバレと思われる内容が含まれるのご注意ください。

(あらすじ)

孤児院のような施設で、保護官と同じような子どもたちと共に学び、遊び、成長してきたキャシーは、現在は介護人として働いている。親友のルースとトミーとの付き合いは長く、時に仲たがいをしながらもお互いを認め合い大切に思っていた。健康であること、子どもは作れないことなどルールはあるものの、施設での生活に不自由を感じることなく生きてきた。「提供」という使命を果たすべく生まれ、命尽きるまでそれを全うすることを疑問に思わなかった子供たちは、それでもどこかで希望を抱いていた。

 

キャシーの回想で進むこの物語の最初は、施設の子どもたちの何気ない生活や、子ども同士のからかい、まことしやかな噂、行事のわくわく感が描かれ、どこか平和な様子を感じさせる。

しかし、保護官と呼ばれる先生たちの奇妙な言動、優秀な芸術作品を残すことへのこだわり、理由の不確かな禁止事項が少しずつ読者に謎を与え、物語の核心へ連れていく。

数ある提供施設の中で、どうにか子どもたちを救おうとする大人たちと、「人」として認めるわけにはいかない社会事情のはざまで、何も知らない子どもたちは成長してしまった。

もし真実を知っていれば、抗うことはできたかもしれない。ただ知らなければ、定められた使命を果たし安らかに生涯を終えられたのかもしれない。造られた命だとしても、彼らの人生は彩を持ち、普通の人と違ったのだとは思えない。

 

もし自分の大切な人が臓器移植をしなければ助からないような状態にあり、その人に適合する臓器があるならば、臓器提供者のことを考えるのは二の次になるだろう。重要なのは移植可能な臓器で、大切な人を生かすことなのだ。ただその臓器を入手する手段に、ある意味行き過ぎることのできる医学に、警鐘を鳴らしている作品だととらえることができる。

また、自分が受けた教育には、親、教育者、社会が知られたくなかった、教えられなかったが重要なことがいつくもあったのではと考えさせられる作品だった。