17歳でデビューを果たした乙一さんの小説
新しい視点とぞっとする怖さ
視覚障碍者となった女性と、殺人容疑のかかった男性のホラー&ミステリー作品。
事故により視覚障碍者となったミチルは、生活を共にしていた父親に先立たれ一人で生活をする。知覚できるのは太陽やフラッシュなどの強い光のみで、それさえぼんやりとした赤い光程度にしかわからない。
病院や買い物は時々訪ねてきてくれる友人とともに何とかやっているが、肉親を失った絶望感と暗闇の外を一人で歩くことの恐れから家にこもりがち。
殺人容疑者のアキヒロはパワハラや陰湿な嫌がらせといった会社の人間関係に悩んでいた。そしてある事件をきっかけにアキヒロは追われる身となり、犯行現場の駅の近くにあるミチルの家にしのび込む。
目の見えないミチルは、何かの存在にきづくもそれを確かめるすべがない。
家の中に2人の奇妙な関係ができる。
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目の見えない恐怖、というのを考えたことがなかった。視力が落ちても眼鏡やコンタクトなどで何とかなる。
これまで当たり前だった世界がだんだんと蝕まれ、朝も昼もずっと夜の闇の中。そんな経験をしているのが主人公のミチルだ。
彼女の視点で描写されているシーンはすべて、視覚情報によらない表現ばかり。作者の表現力がまたすごい。
かろうじて何とか生活できる家の中に知らない誰かがいるかもしれないというのはぞっとする。目が見えていても知らない何者かが家に入ってきていたら怖い。
もし家にいる誰かを突き止めたところで、相手が何をしようとしているのかもまったくわからない。気づかず過ごすのがいいのか、誰かに相談すべきなのか迷いつつ、どこか外の世界とのつながりのような感覚を抱き始めるところが、ミチルがいかに孤独であるかを浮き彫りにしている。
一方アキヒロは、学生のころから人づきあいが苦手な男性。挨拶や仕事はきちんとこなすものの、冗談を言ったり飲みに行ったりするのを好まずいつの間にか孤立してしまう。上司に恵まれなかったこともあり、理不尽なパワハラや嫌がらせに苦しんでいた。ある日、そんな元凶ともいえる上司を駅のホームから突き落とそうとして事件が起こる。
読み進めていく中でいくつもの疑問と疑念がおこる。
なぜアキヒロはミチルが視覚障碍者だと知っていたのか?
なぜ事件現場の近くに居続けるのか(逃亡しないのか)?
自分ならどんな行動をとっただろうか?
目の見えない人の視点、目の見える人の視点両方を織り交ぜて進んでいく物語。
真冬の寒さと暗闇が目に浮かぶような秀逸な文章に引き込まれてみてください。