Mikatsuの本棚

本を読んだ感想など書いています

好きなこと、情熱、衝動

ずっと好きだったこと、続けてきたことを仕事にしている人は尊敬するしすごいと思う。今年読んだ漫画『チ。-地球の運動について-』では、胸が熱くなるほどの感動を覚えた。知への探求に突き動かされた登場人物たちが、命の危険も顧みず真理を追い求める姿には憧れさえ抱いた。そんな『チ。』のイラストが載った帯につられて、衝動について探求すべくこの本を手に取った。

筆者の谷川嘉浩氏は、以前読んだ本と同じ筆者であり、それもあいまって興味がわいた。あの時も『チ。』の作者の魚豊氏の推薦というワードにつられて読んだ。そして大いに満足した。

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この本では、漫画やアニメの具体例を用いながら哲学・心理学の観点から「衝動(自分ではコントロールできないほどの情熱)とは何か」について定義づけようとしている。また、自分がどうしても好きなことについて、もっと自由にとらえられることを提唱している。

「好きなことは何か」と聞かれた時、「料理をすること」「絵を描くこと」「鳥を観察すること」など、一言で答えることは簡単だ。それに対して「将来はシェフ・絵描き・鳥類学者になるのかな?」という返答は安易だと筆者は指摘している。

1つには「好きなことを仕事にする」という考え方が普及しすぎたために、すぐにキャリアにつなげてしまうようになったことがある。傍から見ると「好きなことなので仕事にしました」はわかりやすいストーリーなのだ。けれど、「衝動」は一応言葉で説明することはできるものの、「衝動」の内実は説明しがたい(理解されにくい)ものであるとされている。「好きなこと、やりたいことを仕事にする」は、とても魅力的な言葉ではあるけれど、正直「いや、仕事にしたいわけでは・・・」と思ってしまう自分がいるので、この言葉には気持ちがラクになった。

そして2つ目には、一見簡潔に見える冒頭の答えについて、「料理が好き」とは「自分で作ったものを食べるのが好き」なのか、「レシピブックにある料理を片っ端から作るのが好き」なのか、「オリジナルレシピを作るのが好き」なのか、「ある特定の国の料理を作るのが好き」なのかというグラデーションは分からない。「自分で作ったものを食べるのが好き」な人に「料理研究家になればいい」というアドバイス(?)は的外れな可能性が高い。

「好きなことは仕事にしない方がいいのか」や「自分の衝動がわからない人はどうすればいいのか」についても筆者は触れている。答えやノウハウではなく、自分で見つけるべく多くのヒントを盛り込んでいる。前回読んだ本と同様、一度では消化しきれないので、気になった人はぜひ読んでみてほしい。