本は焚書になることがある。学問や宗教などの言論・思想弾圧をするために、どれだけ優れた本であっても、時の権力によって組織的に大規模に多くの書物が灰と化した。
そんな中、幾度となく起こった戦争とそれに伴う焚書を潜り抜け、14世紀から現在まで、500年を生きのびた古書があった。焚書の対象となってもおかしくなかったこの貴重な一冊は、どのようにして、誰に守られて時を超えたのか。
(あらすじ)
オーストラリア人のハンナは古書の修復士だ。この度、伝説の古書『サラエボ・ハガター(Sarajevo Haggadah)』が発見されたことが発端となり、政治的理由からこの本の修復を依頼されサラエボへ向かうこととなった。500年の時をひっそりと生きのびたこの本には、古書ゆえの劣化のほかに、明らかに複数の所有者の手を渡っていた手掛かりが残されていた。蝶の羽、銀細工、ワインのシミ、塩の結晶、白い毛、それぞれのページに残された痕跡が戦争下の様々な人々の人生を物語る。翻訳ミステリー大賞受賞作。
『サラエボ・ハガター(Sarajevo Haggadah)』は実在する古書であり、史実と創作を織り交ぜたストーリー展開がこの本の魅力だ。宗教には詳しくないので、宗教に詳しい方はより楽しめると思う。登場人物たちはキリスト教、ユダヤ教、イスラム教とそれぞれの思想を持ちながら、時に排除しあい、時に助け合う。戦時下といっても誰もかれもが昨日まで同じ町で暮らしていた人を敵とみなせるわけでもなく、理不尽な時代に何とか抗う人々の描写が時に心苦しかった。主にはヨーロッパを舞台にした話ではあるけれど、主人公の故郷オーストラリアの描写も処々にあり、各国を飛び回っているような気持ちになれる。
本をまた違った目で見られる一冊になった。
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