高校時代の思い出を聞かれたら
何を思い出すだろう?
合唱祭?体育祭?修学旅行?
けっこう些細な会話とか退屈な授業を思い出すかもしれない
大人になってみればなんて狭い世界で生きていたんだろうと
なんて小さなことでぐずぐずとしていたんだろうと思うこともあるけれど
そんな一人一人がいたんだと思うと不思議な気分にもなる
年に一度、1日何十キロという距離を全校生徒で歩く「歩行祭」がある学校が舞台の物語。
恩田陸の作品かつ映画化もされ、知っている人もかなり多いはず。
高校生の時に読んだ本を久しぶりに再読してみました。
同じクラスになった異母兄弟の融と貴子、それぞれ互いを気にかけないよう努め、罪悪感とも気まずさとも形容しがたい複雑な感情から一切会話することのなかった2人を中心に、学年最後の歩行際が始まる。
前に読んだときは(もうだいぶ忘れていたけど)苦しそうな行事だなと思っていた。
改めて考えると、まるで自分が行事に参加しているような気持ちにさせる文章の素晴らしさに驚く。
歩き始め、友達とおしゃべりに興じてわいわいしていたものの、暑さと長距離歩行に口数は減っていき、足の裏やふくらはぎに痛みを感じ始める。1時間ごとの小休憩が救いの時間となる。
遠足ってこういうところあるなあと思い出す。
目に映る景色や周囲の生徒の状況、道順の詳細さから自然と情景が思い浮かぶ。
物語の世界に引き込まれてしまう。
もう一つの見どころは登場人物たちの意外な一面がそれぞれみられるところだ。
才色兼備な友人、どこか冷めたように思っていたクラスメートが悩みを抱えていた点や、後悔していることを独白する場面では、一人一人がそれぞれの思いを抱えて生きているということを気づかせてくれる。
焦点が異母兄弟の距離と関係の変化だとしても、周りの人々は単なるモブではなく、緩やかに影響しあって物語が練られている。
ただ歩くだけ、修学旅行のように観光名所に行くことも、お土産を買うこともない。だけどとても特別な歩行祭。
歩行祭の中に自分も入り込んだような気分になりました。